日本予防医学リスクマネージメント学会

3回憲法記念シンポジウム

「医療と安全  法医学からの貢献」

 

 

 

(開催の背景)  

21世紀における世界の特徴の1つは「市民中心の社会」です。第1の理由は、小さな政府、民間活用、地方分権に例を見るように、人ごとに異なる衣装を身に着けるごとく、世界は国家統治の集合体から個性による自由な文化集合体へ変貌しています。第2の理由は社会経済のグローバル化です。国境なき経済活動の進展は、数百年にわたって難航を極めている国家間の共存よりも、世界の市民による共存の方が簡単である、と証明しました。第3の理由は、おびただしい国家間の戦火にさいなまれた欧州では欧州共同体(EU)を発足し、域内での市民の自由な交流を可能にし、市民中心の社会が発達しつつあることです。

 

21世紀初頭に誕生した日本予防医学リスクマネージメント学会は、変貌する世界の中で、日本における健康、安全および生存に関する諸問題には、市民中心社会にふさわしい新たな戦略が必要になっていることを基本理念としております。そこで、万人公開の「憲法記念シンポジウム」が2006年に開設され、第1(200652)は「災害での国際共同のための国際公共政策」、第2(2007106)は「高度医療福祉社会への転換」を念頭に、討議いただきました。

 

 さて、最近日本では、医療安全に関して医師法21(医師は,死体又は妊娠4カ月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは,24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない)をめぐり、医療界、法曹界および市民の意見が「賛成と反対」に対立しています。この対立意見は東京大学で開催された第3回学術総会において日本では最初に出現いたしました。

 

事故原因究明システムなどのリスクマネージメントは万人に共通財産で、リスクマネージメントの質的・量的水準に関する諸指標(公平性、中立性、受容性、接近性、等)が研究されております。日本予防医学リスクマネージメント学会の上部団体である国際予防医学リスクマネージメント連盟の役員であるスウェーデンのリスクマネージメント専門家集団が指摘する「リスクマネージメントではその透明性が最も重要な指標で、リスクマネージメント・システムの成功の鍵である」との提言 (2003年世界学会第1回総会での欧州推薦の招へい講演、世界学会英文レビュー機関誌「HEALTH」創刊号2005年にも掲載) は、市民中心型社会の先進国である欧州で熟知されています。

 

近代医学発祥地ルネッサンス・イタリアにおいて、法医学は「市民の安全を守る医学」として誕生しました。今回のシンポジウムでは、臨床の安全向上に法医学が果たす役割について臨床家と法医学者の討論が行われるとのことです。医療従事者を含めた市民の健康と安全を守る医療と法のありかたの論議が進展することを願っております。

 

 

20084月  

連盟・学会 理事長   

酒井 亮二